株式会社クローバー代表で介護支援コンサルタントの秦です。
令和7年度「大分県訪問介護事業所支援事業(経営改善支援事業)」において、当社が経営支援を行う事業者として選ばれ、代表の秦が大分県内の訪問介護事業所10か所に対して経営支援(コンサルティング)を行いました。
この事業は、訪問介護サービスについて持続的な経営に向けた経営改善を図り、地域に必要な介護サービスを、利用者が安心して受けられるサービス提供体制を確保することを目的としています。
一口に「経営改善」といっても、事業所によって課題は異なります。
利用者の確保、売上、人材不足、採用、職員の定着、業務効率化など、数字に表れる課題もあれば、スタッフの意識や事業所としての方向性など、数字だけでは見えてこない課題もあります。
今回の支援では、それぞれの事業所の状況を確認しながら、その事業所に合った経営改善を一緒に考えてきました。
このブログでは、その中で生まれた気づき、現場での実践、そして経営上の変化を「経営支援実践報告」として紹介していきます。
なお、事業所が特定されないよう、記事内の事業所名はすべて仮名としています。
今回ご紹介するのは、大分市の「ヘルパーステーションかいご」(仮名)です。
外部利用者0名から始まった経営支援
支援を開始した10月時点で、ヘルパーステーションかいご(仮名)の外部利用者は0名でした。
外部利用者が0名の理由は、現在、施設にホームヘルパーとして訪問はしているのですが、施設以外に訪問をしていないということです。
これからは、施設以外の利用者さんも増やして行きたいということで今回の支援を申し込まれたそうです。
訪問介護事業所を持続的に経営していくためには、当然、売上を確保していかなければなりません。
「売上を上げなければならない」
それは分かっていても、
「では、どうやって売上を上げればいいのか?」となると、具体的な方法が分からない。
実際に、支援を通じて、
「売上を上げればいいと思っていました。しかし、上げ方が分かりませんでした」という声も聞かれました。
そこで私が最初に考えたのは、営業の回数や営業先を増やすことではありませんでした。
まず、「自分たちの訪問介護事業所は、利用者や地域にどのような価値を提供しているのか」を考えるところから始めました。
「手助け」から「暮らせることの証明」へ
研修前は、
「家で暮らすために、できないことを補ってあげる」という考え方が中心にありました。
もちろん、できないことを支援することもホームヘルパーの大切な役割です。
しかし、それだけではありません。
支援を進めていく中で、考え方が少しずつ変化していきました。
「家で暮らすとは、利用者自身が暮らせることを証明することではないか」という考え方です。
できないことを何でも代わりに行うのではなく、利用者のできることを見つける。
一緒にやってみる。
そして、
「この方は、これができる」
「こういう環境をつくれば、自宅で生活できる」
という事実を家族やケアマネジャーなど周囲の人たちへ伝えていく。
それこそが、訪問介護における自立支援の根本ではないかという気づきが生まれました。
「家で暮らし続ける」を具体的な行動に変える
考え方が変わると、現場での行動も変わっていきました。
認知症の利用者が多い中で、ヘルパーステーションかいご(仮名)が取り組んだのが、利用者が自宅で暮らし続けるための生活環境づくりです。
例えば、家の中を安全に移動できるよう動線を確保する。
滑りやすいマットの下には滑り止めを置く。
リモコンを間違えずに使えるように、写真付きの説明書をスタッフが手作りして壁に貼る。
また、重度の利用者については、一つの事業所だけですべてを抱えるのではなく、複数の事業所との連携を増やしました。
「自宅で暮らし続けてほしい」
そう言葉で掲げるだけではなく、
「どうすれば、この方が自宅で暮らし続けられるのか?」
を一人ひとりについて考え、小さな工夫を積み重ねていきました。
外部利用者0名から15名へ
こうした取り組みを続けた結果、数字にも変化が現れました。
10月の研修開始時には0名だった外部利用者が、2月時点では15名になりました。
さらに印象的だったのは、その15名のその後です。
入院された方はいらっしゃったものの、施設へ入所された方はいなかったとの報告がありました。
外部利用者が0名から15名になった。
更に訪問が生活援助ではなく身体介護が多かったのです。
経営という視点から見れば、これは大切な成果です。
しかし、私が注目したいのは「15名増えた」という数字だけではありません。
その背景で、
「どうすれば、この利用者ができるだけ永く自宅で暮らせるのか」
という問いをスタッフが持ち、そのための具体的な実践を続けていたことです。
私は、この二つがつながっていることに大きな意味があると考えています。
利用者との会話にも変化が
変化は数字だけではありませんでした。
コミュニケーションについての研修では、私から「話させ上手」という考え方をお伝えしました。
「話し上手」でも「聴き上手」でもなく、相手が自然と話したくなるような問いを投げかける「話させ上手」です。
研修後、それまであまり話をされなかった利用者に、出身地や昔の仕事について質問してみたそうです。
すると、その利用者が笑顔で故郷や仕事の話をしてくれたという報告がありました。
何気ない会話かもしれません。
しかし、その会話によって利用者との距離が縮まり、その人自身をより深く知ることができる。
それもまた、より良い支援につながっていきます。
経営改善は「売上表」の中だけで起きるものではない
今回の支援を振り返ると、経営改善とは単純に「売上を上げる方法を教えること」ではないと改めて感じます。
利用者の表情が変わる。
スタッフの言葉が変わる。
家の中の環境が変わる。
利用者を見る視点が変わる。
そして、その小さな変化が積み重なって、「この事業所なら自宅での生活を任せられる」という事業所の価値になっていくのではないでしょうか。
その結果として利用者が増え、売上にもつながっていく。
今回の事例は、そんな経営改善の一つの形だと思います。
支援を通じて寄せられた声
●「売上を上げればいいと思っていました。しかし、上げ方が分かりませんでした。」
●「話させ上手というワードに感銘を受けました。」
●「今まであまり話されなかった利用者様が、故郷や仕事の話を笑顔でしてくださいました。」
●「家で暮らすとは、利用者が暮らせることを証明することだと考えるようになりました。」
●「10月は外部利用者が0名でしたが、2月には10名になりました。」
そして、特に印象に残ったのが、
「訪問介護の経営とは、いかに永く家で暮らせるように支援するかが大事です。」という言葉です。
介護支援コンサルタント・秦から
今回のヘルパーステーションかいご(仮名)の実践には、私が介護事業所の経営支援で大切にしていることが表れています。
売上を上げることと、良い介護をすることは、別々の話ではありません。
「どうすれば利用者を増やせるのか」と考える前に、
「私たちの事業所は、利用者にどのような価値を提供できるのか」を考える。
そして今回たどり着いた一つの答えが、
「利用者ができるだけ永く、自宅で暮らせるように支援すること」でした。
その考え方が、生活環境の改善やコミュニケーション、他事業所との連携といった具体的な行動へ変わり、その先に外部利用者0名から15名へという数字の変化が生まれました。
私は経営コンサルティングにおいて、数字だけを変えるのではなく、「なぜその数字を変える必要があるのか」「そのために自分たちはどんな価値を提供するのか」まで一緒に考えることを大切にしています。
今回の実践は、訪問介護における経営改善とは何かを考える、とても良い事例になりました。
◆介護事業所の経営支援・研修のご相談について
介護支援コンサルタントとして、訪問介護事業所をはじめとした介護事業所の経営支援、職員研修、セミナー・講演などを行っています。
「スタッフと一緒に事業所の方向性を考えたい」
「訪問介護の価値を職員に改めて伝えたい」
「事業所の課題を整理し、次の一歩を考えたい」
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