米国では年間約3万2000人が、全く喫煙経験がないにもかかわらず肺癌(がん)で死亡しているという。専門家によれば、肺癌の5例に1例は非喫
煙者に発生する。現在、喫煙経験のない肺癌患者の年間死亡者数は乳癌(年間約4万人)にも迫る数となっており、前立腺癌(3万2000人)とほぼ同程度。
また、女性では卵巣癌(年間1万4000人)による死亡者数の2倍以上となっている。
専門家らは、肺癌が「喫煙者の疾患
(smoker's disease)」であるという一般的な考えを改める必要があると訴えている。肺癌の理解促進を目指す非営利団体Uniting
Against Lung Cancer(UALC)のLinda
Wenger氏は、「肺があれば肺癌になる可能性がある」と述べ、「肺癌を他のあらゆる癌と同じように捉える必要がある」と付け加えている。
多くの専門家が、肺癌になる人は「自業自得」との考えによって、研究への支援が阻まれていると述べている。UALCのHolli
Kawadler氏によると、米国立癌研究所(NCI)からの研究支援は、乳癌では死亡1件あたり2万7000ドル(約210万円)であるのに対して、肺
癌ではわずか1400ドル(約10万9000円)。また、肺癌が致死的な疾患であることも認識を高める取り組みを阻んでいる可能性がある。「肺癌患者は診
断を受けると急速に容体が悪化するため、自ら支援の必要性を公に訴える役割を引き受けることができない」と、肺癌研究財団(LCRF、ニューヨーク)の専
門家は説明する。
しかし、限られた支援の中、非喫煙者の肺癌の性質が徐々に明らかにされており、そのひとつは、男性よりも女性の罹患率が
高いことである。非喫煙者の肺癌患者は、女性2人に対して男性1人の割合である。この理由はわかっていないが、これまでの研究で、女性の肺癌の侵襲性に
は、乳房腫瘍と同様にエストロゲンとの関連がみられることが示されている。また、LCRFの支援により米M.D.アンダーソン癌センター(テキサス州
ヒューストン)で進められている研究では、非喫煙患者の腫瘍細胞の新たな潜在的マーカーに着目し、非喫煙者に適した治療選択肢の特定につなげることを目指
している。このほか、一部の非喫煙者の肺癌リスクを高めるリスクファクター(危険因子)を特定することも、研究の焦点となっている。
しか
し、このような研究が前進するためには、もっと十分な資金が必要である。また、喫煙経験のない肺癌患者に対する汚名も依然続いている。「患者が診断後にま
ず聞かれるのが、『喫煙していたのか?』という質問だという。これは非常に辛いことだ」とKawadler氏は述べている。